イギリスのロンドンにある日系メーカーの販売拠点に勤務。現地での楽しみは、ロンドン市内の散歩や、イギリス国外への旅行、革靴などイギリス名産品のショッピング。ジムのプールで泳ぐことを日課としている。
「LとR」「SとTH」を押さえておけばなんとかなる
こんにちは。Jです。今回は、英語を「らしく」話すためのコツや駐在を通じて得た収穫などについてお話しします。
私の英語力は、赴任直後でCEFR レベル(Common European Framework of Reference for Languages。語学のコミュニケーション能力別のレベルを示す国際標準規格として、欧米で幅広く導入されつつある)のB1(社会生活での身近な話題について理解し、自分の意思とその理由を簡単に説明できる)からB2(社会生活での幅広い話題について自然に会話ができ、明確かつ詳細に自分の意見を表現できる)の間であり、TOEIC(R)テストのスコアでは800点程度でした。赴任10カ月後の現在はB2とC1(広範で複雑な話題を理解して、目的に合った適切な言葉を使い、論理的な主張や議論を組み立てることができる)の間くらいのレベルです。
英会話に慣れるために、赴任前からノンネイティブ(フィリピン人)とインターネット電話サービスを使ったオンライン英会話を1日25分、4年弱継続していました。月5000~6000円くらいのこうしたプログラムが最近、流行(はや)っているんです。実は、英語は学生のころから苦手科目であり、ほかの科目と比べて見劣りすることはわかっていつつも放置してきた人間なので、予想外にグローバルな仕事に就くことになり、慌ててオンライン英会話を始めたというわけです。
そうしたトレーニングを続けていたこともあり、「イギリスに行けば、普通にイギリス人との会話が成り立つだろう」と思っていましたが、いざ赴任してみると、イギリス人の話す言葉がまったく聞き取れず、こちらの言うことも理解してもらえない状況に直面して、英語に対する自信を完全に失いました。イギリスの人々が話している英語は、BBC(英国放送協会)のニュースの英語のように、きれいで日本人にとって聞き取りやすいものではなく、とにかく速くて抑揚が控えめでアクセントも多岐にわたり、しかも複雑かつ長い文章が多かったからです。だから、耳を鍛え続けて慣れていくしか、適応する方法はないと思います。
特に、スコットランドのグラスゴーの英語は難解で、オーストラリア出身の同僚でさえ、「最初はまったくわからなかった。適応するのに2年かかった」と音を上げたほど。そのくらい、英語ネイティブにとっても難しい英語のようです。さらに、イギリスは、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと、4つの国で構成されてる連合国であり、場所によってアクセントもさまざまです。普段の1対1のコミュニケーションでは、相手も自分のレベルに合わせてくれるために意思疎通が成り立ちますが、大人数のミーティングだと、そうはいきません。ただでさえスピードの速い英語が、シャワーのように降り注ぐ中で、内容を理解しなければならないからです。特に、電話会議ともなると相当に高いリスニング能力が求められると思います。
今は、自分の英語の欠点を見つけて修正していく目的で、1回2時間、週3日ほど、ネイティブの家庭教師によるレッスンを受けています。内容は、「LとR」「SとTH」といった、日本人にとってはうまく発音できなくて、かつ正しく発音しないとなかなかネイティブに聞き取ってもらえないような重要な発音を矯正していくことと、ライティングの内容をよりエレガントにするための文法の学習などがメインです。加えて、ひたすら英語だけをしゃべり倒す時間を作るために、先述した1日25分のノンネイティブとのオンライン英会話も続けています。
移動時間には、BBCラジオやBBCの地方局のプログラムなどを聴くようにしています。単に英語に慣れるだけでなく、さまざまなアクセントに対応するためのリスニングのトレーニングにもなるからです。当社の販売拠点での仕事は、ネイティブレベルの英語(前述のCEFRでC2レベル)が求められるので、今の自分の実力とのギャップが大きいのは事実ですが、とにかく時間を見つけて英語に没頭していくことを続けていくしかない状況です。
最近、その甲斐(かい)あってか、英語をそれらしく話すコツのようなものがわかってきました。日本人にとって発音を区別するのが難しいのが「LとR」「SとTH」です。これらをはっきりと発音できないと特に地方のネイティブには、何が言いたいのかわかってもらえません。そこでよくわかったのが、特に日本人には発音しにくい「L」または「TH」を発音するために常に舌を前方に構えておくと伝わりやすくなるということです。また「R」を発音する際は、その前に「ゥ」を発音するように意識するとイギリス英語っぽくなります。「correct」なら「コレクト」ではなく「コゥエクトゥ」といった具合です。また、流暢(ちょう)でなくて良いので、確実に相手に伝わるようにゆっくり、綴(つづ)りを意識しながら発音することも大事です。これらを押さえておけば、多分、どんな人でもそれなりに聞こえるように話せると思います。
厳しい環境で自分を鍛えられる
海外駐在は、自分のキャリアを考える上では、一度は行っておかなければと思っていたのですが、愛猫を連れて行くのにとてもハードルが高いことから、その一歩をなかなか踏み出せずにいました。
だから、日本人が赴任するのは7~8年ぶりという、まったく想定していなかったイギリス駐在を命じられた時は、とても驚きました。イギリスの販売拠点といえば、すでに経営トップ以下の構成はほぼ全員が現地人で、完全に現地化されており、マネジメント陣は非常に優秀。当社ではトップクラスの海外拠点であり、そんな英国人の牙城に私が乗り込んでいってどうなってしまうのか想像がつきませんでした。
しかし、いざこちらに来てみると、自分でも気づかないうちに「イギリス式」が身についたように思います。まず、自分の意見を言うようになりました。意識せずに自分の口から普通に自分の考えが出てくるのです。イギリスでは、私の状況など周りの人は知りません。「自分から発信していかないと、いつまでたってもわかってもらえない」ということを認めて、そこからコミュニケーションをスタートさせないことには、進まないからです。
私の場合、ほとんどが現地人という中で唯一の日本人であり、超先進国で誇り高き人ばかりのこの組織のピラミッドで、言葉も完璧でないまま働くストレスは相当なものです。とはいえ、この中に身を置いて頑張ることは、日本に帰任した際の大きな糧となってくれることでしょう。人は自分のコンフォートゾーン(心地よく感じる場所)に居続けていても、成長できません。その範囲を超えた厳しい環境で自分を鍛えることは、言ってみれば筋トレのように、自分にとって必要な筋肉を早くつけてくれるように思うのです。
また、数年間、英語のブラッシュアップを続けられること、そうして自分の可能性を最大限に伸ばすことも、日本にいては、なかなかできないこと。特に、アラフォーの私の年齢では得難いチャンスだと思います。多くの人とコミュニケーションを図ることで、いろいろな考え方をリスペクトすることができるし、日本のいいところも悪いところも見えてきて、視点に変化が生まれます。自分の考え方に、奥深さが生まれたように思います。
もし、海外で仕事をしたいと考えているのなら、なるべく、そういうチャンスがある道を選ぶべきだと思います。「やりたい」と思っていることが何よりだからです。私の場合、「絶対に海外で仕事をしたい!」というほどの強い思いは入社当初はなかったのですが、「この会社の中で働き続けて、いずれ経営に携わろうとするなら、一度、海外に出るのは必要条件だろう」と考えて、ようやく一歩を踏み出しました。そうして、海外は、思った以上の多くの刺激に満ちあふれていることに、良い意味でのショックを覚え、すっかり海外の魅力に取りつかれてしまったのです。海外駐在にはやや消極的だった私ですら、海外に出て楽しい刺激がいっぱいあったのですから、意欲の高い人たちには、なおさらのこと。ぜひともチャレンジしてほしいと思います。
英語の教科書。発音やグラマー、セールスに特化したものやイギリスの文化に至るまで、目的に応じてそろえている。
ダイナミックで色彩も美しいテムズ川に架かる橋、タワーブリッジ。民謡で有名なロンドンブリッジとよく間違えられる。
ロンドンブリッジの近くにある食料品市場「バラ(Borough)マーケット」。精肉や鮮魚、野菜といった食材だけでなく、すぐに食べられる屋台料理なども充実している。
構成/日笠由紀